欧州交通政策視察
2004年5月10日〜17日
1.はじめに
2004年5月10日(月)広島空港を出発し、広電支部13名、広島市議団5名の総勢18名での欧州交通政策視察で あった。団長に若林市会議員を選出し、訪問先には、フライブルグ・ストラスプール・カールスルーエ・ハイデンベルグ等である。
交通政策視察として、住民の生活交通や生活環境を守る、電車・バスなどの公共交通機関をどのように利用し、人・車・公共交通等の総合的な交通体系システムが確立されているのかが主な視察内容である。
全般的に、ドイツの交通体系は人・車・公共交通が旨く融合し、住み分けが確立していると感じた。街の中心部に路面電車を走らせ、車の乗り入れを規制していて、みごとなトランジットモールとして、機能していた。住民の意識感覚が日本人と違う面もあるのだろうが、『ヨーロッパ都市の歴史は、古く、1400年代の建物が、今も完全に樹立していて、なんら不自由なく、使用されている。また、そのことは1400年代には、交通体系は車ではなく、主に馬車や歩行であったこと。その当時のままの都市形成が残っており、いわば車の存在していない状況であるから、駐車場のスペース等がないことから、近代に入って、ドイツも各国の状況と同じくして、車社会として、車の普及が進展していったのである。駐車場の概念がない都市では、それがどのような状況に陥るかは簡単に想像がつく。いたるところで渋滞がおこり、経済的にも大きな損失が生じたのである。』この問題をみごとに解決し、成功を収めた手法の説明が市・行政から、次のようにあった。
国・市の行政として、住民が車から公共交通に転換するには、車より公共交通の魅力アップを図り、移動するには自然に、車から公共交通機関を選択するように様々な政策を打ち出すことにある。そのために、当時の公共交通はイメージが悪く、サービスも悪かったため、23時間営業、便数の増便、車内の混雑度の解消、乗りたくなるような車両の改良、複雑な運賃システムの改良、運賃値下げ等の実施である。 運賃システムは、3.5ユーロ(490円)でバス・電車1日乗り放題であり、37.7ユーロ(5278円)で1ヶ月定期券がある。当然、これらの取組みで私企業の公共交通事業者も同一であるために、赤字部分は補助金を市町村が補填している。 更に、乗降システムであるが、利用者が乗降の際に自らドアを開けて利用するシステムであり、運転士は各停留所に必ず停車するようになっている。降りる際には、運賃収受がないので乗降時の時間がかからない。 これらの取組みにより、1976年の車交通量(231万台)が、1996年には交通量(232万台)であり、20年前の交通量と変わらない数値があり、それは、人口増加と車両登録増加にもかかわらず、20%の2万9000台が公共交通へ転嫁されたのである。(この数値はフライブルグ市単体である) また、環境面では総合的に配慮され、大型車両から真っ黒な排ガスが出ていないのには、びっくりした。軽油の成分が日本のそれとは違うらしい。マフラーにも更に改良が施され、触媒装置が義務化され、臭いもほとんど無く、それでもバス整備工場には大きなガス排出ダクトがいくつも設置されていた。 一般道路では、自家用車の無謀な運転ドライバーを見かけることがなかった。世界でも有名な『アウトバーン』があるからかも知れないが、日本のようにむやみやたらにクラクションを鳴らす光景に出くわさなかった。アウトバーンでは速度無制限で走行できるが、ドイツ人はそれぞれ個人の技量に合わせ、無謀な運転や己の技量を超えた運転などしないと言う、個人の考えや人権が完全な形で確立していると感じた。
2、 フライブルグ市視察
3ヶ所の操作所、56両のトラム電車、280台のバス車両を保有。
【市行政の役割】
・ 市民のライフ条件の向上、モビリティの向上、歩行者環境の向上、自転車道のネットワーク等のあらゆるモビリティの向上にある。
・ 1901年に市電を開通⇒1906年から1950年にかけて車が増加
・ 5本の政策を打ち出す
@ 公共交通機関の促進
A 自転車交通の促進
B 車公害の少ない住宅地域の創出
C 自動車交通の整備
D 駐車場の管理
総合交通システムコンセプトを決定し、5本の政策の1つでも向上させれば、必ず総合的に他のコンセプトも向上につながる。
@ 公共交通機関の奨励として、『Regio環境カード』を発行し、全長2900Kmの広範囲で有効利用が出来る。また、譲渡使用も可能で、週末には家族全員が利用できる。イメージアップにつなげる為に、ロゴも環境問題に市民も参加している意識を持たせる工夫をした。(緑=葉、平和=ハト、水質=魚、教会)をイメージしたロゴマークを環境カードに載せている。
A 自転車の奨励として、子供・老齢者等、弱い立場の人々の生活空間を快適にするため、又自動車に替わるものとして公共交通機関同様に自転車道を全長163Km整備。市内自転車駐車場の増設。歩道にセンターラインを引き、歩行者と自転車の通行区分。
B 市内駐車場の削減 市内乗り入れを制限するために、駐車場を削減し、そこに自転車置き場を設置した。又、メーター式の駐車場は料金を値上げし、短時間駐車の利用へと誘導した。
C パーク&ライドの整備 ロゴマークも車と電車が合体したようなロゴマークを作成し、市民への意識付けをしている。
D 公共交通機関の充実として、ダイヤ編成は夏ダイヤと冬ダイヤに分けている。ディスコバスの運行(金曜日に運行) 深夜に電車・バス・タクシーを総合的に運行し、田舎の郊外まで市民が利用し、自宅まで行ける。タクシーは1ユーロで利用でき、補助金を市町村が負担。収支率120%で成功している。
これらの政策を行い、主要道路以外の特に住宅地域を速度30Kmゾーンとして車両規制を行なうなど、空気汚染の保全、市民の快適な生活空間の確保をめざす対策を講じたことにより、市民は様々な交通手段を機能的に選択することが出来ている。 さらに、市民へのアンケート調査では、『目的地への移動時間で車と公共交通は、どちらが早いかとの回答では圧倒的に公共交通機関が早いと応えた市民が多い』とあった。
3、 ストラスプール視察
『ストラスプール市で、我々は持続可能な発展を断固選択した。我々の「ユートピア」は、経済・社会の発展と環境の永続性を両立することだ。そのためには、まず何よりも一貫性のある交通政策が必要となる』
ストラスプール市長 ローラン・リース
・ 路線延長64Km ・ 36万人の利用者があり、人口の60%を占める。
・ 新幹線がドイツへ延びることを望んでいる。 ・ ストラスプールは地方都市であり、他の交通結節を行なうことが重要である。
・ パーク&ライド方式で、トラムと駐車場を整備し、駐車場料金を安くする。
・ 連続性・一貫性があり、よく標識の整った自転車用ネットワークを構築する。
・ 市の計画を示し、絶えず市民との対話や理解を得る努力が事業完成の早期実現に寄与する。
・ 将来的には、車からの乗換えだけではなく、列車からの乗り換えが出来るように、トラムを延長していく計画である。
・ 従業員10人以上の企業から公共交通税(給料の1.6%)を取り、公共交通整備の財源確保
あらゆる交流に欠かせない人と物の移動をどうやって組織し、促進していくか。街の中のアクセスをどうやって高めていくか。それも、都市内・都市周辺移動に使われる車の割合が、ここ20年で2倍になるという傾向に歯止めをかけながら、公共空間に手を入れ美化する街づくりを行なう。
トラムとバスの公共交通の復権を行なうことは、同時に町そのものと公共空間を見直す絶好の機会でもある。パーク&アンドライドが成功したのは、幹線道路を下りたところに駐車場を整備したこと(2700台)。これにより、以前車で移動していた人の90%が公共交通に転嫁している。トラムの成功により、問題が発生した。町の中心部での乗り換えしかなく、1日9万人の人が溢れた。したがって、二つのトラム路線を延長し(13Km)、分散化を図り、バス・トラムの乗り換え場所をシームレス化することで、乗り換えもスムーズに、移動距離も数メートルにした。
現在ではストラスプ−ル市で行なった、これらの計画を他の都市もモデルケースとして、検討中であり、我々としては、国境を越え、ドイツとも話し合いを進め、他都市との交通結節のスムーズ化を図って行きたいと考えている。
4、 カールスルーエ視察
カールスルーエは、ドイツ南西部に位置し、黒い森に囲まれ、ライン川に面した行政・経済・文化・技術の中心地であり、連邦裁判所やドイツ最古の工業大学などがあり、学生数(約3万人)が多いのが特徴である。
・ バーデン・ヴュルテンブルク州第3の都市
・ 人口約28万人
カールスルーエの道路状況は、市街地の外周部を取り囲むようにアウトバーンが走っており、市内の道路は宮殿を囲むように環状道路がある。1960年代に入り、モータリゼーションの進展に伴い、至る所で車の渋滞が起こり、20分位の渋滞が当たり前のように起こってきた。また、鉄道もあまり利用されない状況でもあった。
そこで、車を増やした生活か、車を使わない生活を選択するかを議論した。交通問題は町の中だけの問題ではなく、郊外も含めた総合的な生活交通をどうするかが重要であり、更に住民に納得していただく事が大事である。
・ ドイツ鉄道と路面電車との相互乗り入れの施策実施
・ 電車とバスが同一ホームで乗降ができる交通結節の充実化
・ パーク&アンドライドの充実化、LRT、鉄道、バス等の各停留所に駐車場の整備
・ 街の中心部への自動車乗り入れの規制し、中心市街地内のトランジットモールの整備
・ 公共交通の23時間営業
これらの施策を実施に当たり、住民の理解を得るために実験的に無料で乗降していただく宣伝活動を各村までに行なった。実際に、車で街までの移動時間や経費等を実感していただくもので、家から近い駅まで車で行き、P&Rを体験させた。
実験は大成功を収め、乗り切れないほどの利用者が殺到したとの報告があった。
現在では、5600万人の利用者があり、実施当時では、利用者が以前の4倍を数え、現在では8倍の利用者があり、交通政策として成功を収めたと思っている。
5、 さいごに
欧州視察で感じたことは、どの都市でも車の乗り入れ規制をしているが、決して車を否定しているのではない。各都市では、移動の手段が車より公共交通機関の方が早く、安く、安全に移動できるように政策を行なっており、他の都市へ移動するときには、車で「アウトバーン」を利用している。
実際に「アウトバーン」では、途切れることなく多くの車が走行していた。また、公共交通税なる税金制度があり、その財源で、更に公共交通を利便性の高いものに投資する考えに感銘を受けた。消費税16%の生活も日本人には高いと感じられるが、その財源は福祉の充実があり、老後の心配や病気したときの生活の心配が無いのであるからうらやましい限りである。
交通の問題も福祉の位置づけとして定着しており、学ぶべき点が沢山あった。
余談であるが、ドイツでは車の車検代がバス車両で8000円程度であると聞いた。
日本の制度とは大きな差が有り、日本の消費税5%は比較すると安いが、車検時には多くの税がかけられている。重量税・ガソリン税等々の道路特別財源は約8兆円近くまで膨れ上がり、自賠責保険もそうである。これらの財源を交通問題の解消に役立て、早急に日本も交通政策の転換を図るべきであると痛切に感じた欧州視察であった。
記 板崎勝美
